先日、古くからのお客様とお話していた際に、昔からのアメリカ照明ブランドが消滅していっているのではないか?というご質問をいただきました。確かに、ここ10年ほどでアメリカの照明器具業界は再編が進み、ブランド自体が名前を残さず消滅したり、他のブランドに吸収されているブランドもあります。
そこで過去10年で、アメリカの(主に住宅系)照明器具ブランドに起こった出来事の年表を作成してみたいと思います。
この10年のアメリカ照明器具業界をひと言でまとめるなら、起きていたのは単なる「デザインの流行の移り変わり」ではなく、産業の土台そのものが組み替えられた10年だったと言えます。
光源は白熱球や蛍光灯から、一気にLEDへ。
すると照明器具の価値も、「どれだけ明るいか」だけでは語れなくなりました。今、問われているのは、意匠性、制御性、ブランドの世界観、そして空間体験そのものです。
それと並行して、アメリカの大手照明メーカーは、1ブランド単位で競う時代から、価格帯・販路・用途ごとに複数ブランドを持ち分けるポートフォリオ経営へと大きく舵を切ってきましたという経緯もあります。
さらには流通も大きく変わりました。
かつては独立系ショールームが主役でしたが、今はそこにビルダー向け、リモデル向け、EC、DTC、さらにはデザインフェア発の新興ブランドまで重なっています。市場は、ずいぶん立体的になっています。
LED化が、すべての前提を変えました
まず、この10年を語るうえで外せないのがLED化です。
今からおよそ10年前、2015年時点では、アメリカの家庭で「屋内照明は主にLED」と答えた世帯は、わずか4%でした。
ところが2024年の調査では、この比率が90%にまで達しています。(共にU.S. Energy Information Administration集計データによる)
この数字は、かなり象徴的です。
つまり、LEDはもはや“新しい技術”どころか、市場の前提条件になった、という事です。
自動車もかつては、そのうち全てEVに変わる的な分析をされている専門家の方がいらっしゃいましたが、10年ではそうなっていないところを見ると、自動車産業と比較して照明器具業界は対照的だと感じます。
そして、ここが大きな転換点でした。
光源の優位性で差をつける時代が終わると、メーカー各社は次の勝負に向かいます。
それが、ブランドの整理、用途別提案、制御との接続、そして流通の再構築でした。
Visual Comfortが示した「次の勝ち方」
その流れを最もわかりやすく見せたのが、Visual Comfort & Co. を中心とする再編です。
2017年、投資会社のAEA InvestorsはVisual Comfortを取得し、すでに投資していたGeneration Brandsとの統合を発表しました。
そして翌2018年には、企業全体をVisual Comfort Groupとして再編し、
- プレミアム装飾照明の Visual Comfort & Co.
- モダン領域の Tech Lighting
- 普及価格帯・ビルダー向けの Generation Lighting
という、非常にわかりやすい三層構造を打ち出しました。
ここが重要です。
単にブランド数を増やしたのではありません。
どの価格帯を、どの販路で、どの顧客に届けるのかを明確に切り分けたのです。
しかもTech LightingにはLBL Lightingの主要コレクションが取り込まれ、後のVisual Comfort Modern Collectionにつながるモダン系の整理も進みました。
つまりこの再編は、ブランド統合であると同時に、デザイン言語の整理でもあったわけです。
その前史にあった、Murray FeissとSea Gullの統合
ただ、このVisual Comfort陣営の再編は、突然始まったものではありません。
その前史として見ておきたいのが、Murray Feiss と Sea Gull Lighting の2007年統合です。
両社は新しい持株会社の傘下に入りながらも、ブランド自体は独立性を保ちました。
つまり、ブランドは残す。けれど、裏側では規模をまとめる。そんな形です。
このモデルは、その後のGeneration Lighting構想や、Visual Comfort Group的な発想の原型として読むことができます。
アメリカの照明業界は、このあたりから明らかに変わりました。
ブランド名を消して1つにするのではなく、ブランドの物語は残しながら、調達・営業・物流・ショールーム戦略を束ねる。
その方向へ、業界全体が進んでいったのです。
Hudson Valley Lighting Groupは、別ルートで強くなりました
一方で、別の勝ち筋を作ってきたのが Hudson Valley Lighting Group です。
同社は創業ブランドのHudson Valley Lightingを軸に、
Corbett Lighting、Troy Lighting、CSL を取り込み、再活性化し、さらに近年は Mitzi を育て、2025年には SONNEMAN を取得しました。
ここで注目したいのは、単なる規模拡大ではないという点です。
HVLGは、SONNEMANの買収を「高性能で構成可能なLED照明領域への拡張」と位置づけています。
つまり、装飾照明の美しさだけでなく、建築照明、高機能LED、システム提案まで視野に入れ始めたということです。
これは大きいです。
Troy LightingやCorbett Lightingのような装飾性と、CSLやSONNEMANのような技術性を、ひとつのグループで持つ。
この両輪化は、今後の業界標準にかなり近い動きだと感じます。
KichlerとProgressも、いよいよ“単独勝負”をやめました
中価格帯からビルダー市場にかけても、同じような再編が進んでいます。
Kichler は1938年創業の老舗で、住宅照明だけでなくランドスケープやシーリングファンまで含めた総合提案力を持つブランドです。
一方、Progress Lighting は100年以上の歴史を持ち、新築住宅、改装、ライトコマーシャルまで幅広くカバーしてきました。
そして2024年、Kingswood CapitalがProgress Lightingを取得。
さらに同年9月にはKichlerも取得し、2025年には両社を束ねる新持株会社 Coleto Brands を発表しました。
ここで面白いのは、ブランドをひとつにしなかったことです。
そうではなく、営業代理店、受発注、出荷などのインフラを束ねながら、ブランドは市場で併存させる。
この設計が、いまのアメリカらしいところです。
つまり、照明業界の競争単位は、もう“単一ブランド”ではありません。
運営プラットフォーム単位に変わってきているのです。
需要の中心は、新築だけではなくリモデルへ
需要側の変化も見逃せません。
ハーバード大学JCHSによれば、2025年の持ち家向け修繕・改装支出は前年比1.2%増と、緩やかな回復が見込まれています。市場規模見通しも5,090億ドルへ上方修正されました。
これは何を意味するのでしょうか。答えはシンプルです。
照明需要が、もはや新築一本足ではなく、リモデル(リフォーム・リノベ)市場にしっかり支えられる構造に入っているということです。
だからこそ、Generation Lightingがビルダー・コントラクター・リモデラー向けを強く意識し、Progress Lightingが新築と改装の両方を主戦場にしてきた意味が大きいのです。
そしてVisual Comfort/Circaが編集型ショールーム体験を磨いてきたのも、まさにその文脈で理解できます。
今の販路は、単なる販売網ではありません。
顧客がどう選び、どう納得し、どう空間に落とし込むかという意思決定の導線そのものになっています。
今の市場は、“高いか安いか”だけでは読めません
足元の市場は、回復基調にありながらも、供給面では不安定さを抱えています。
2025年の業界報道では、アメリカの照明ディストリビューターは中国製品への依存度が高く、関税強化が仕入れ価格、在庫、納期、価格転嫁に大きく影響しているとされています。
ただ、現場ではおもしろいことが起きています。
消費者は計画をやめるのではなく、“見せ場にはお金をかけ、その他は抑える” という選び方を強めているのです。
たとえば、玄関、ダイニング、吹抜け、パブリックなLDKには印象的な照明を入れる。
その一方で、個室やバックヤード的な空間では価格を抑える。
まさに、メリハリ消費です。
この動きは、高価格帯ブランドだけが勝つ市場でも、低価格帯だけが伸びる市場でもないことを示しています。
むしろ強いのは、主役空間の審美性と、全館計画を成立させる価格設計、その両方を持てる企業です。
この10年で、業界は4つの軸で再定義されました
ここまでを整理すると、この10年でアメリカの照明器具業界は、次の4つの軸で再定義されたと言えます。
1. LED化
LED化によって性能面の差が縮まり、競争の中心が再び器具そのものへ戻りました。
2. ブランド再編
企業同士の競争は、単一ブランドの強さではなく、ポートフォリオ設計力で決まるようになりました。
3. スマート化
照明は単体商品ではなく、制御インフラの一部として考えられるようになってきました。
4. 流通の多層化
量販(ホームセンター等)、ビルダー、ショールーム、EC、DTC、デザインフェアが重なり合い、販路そのものが戦略になりました。
時系列年表
ブランド再編・LED化・スマート照明・流通変化の整理
| 年 | カテゴリ | 主要な出来事 | 業界的な意味 |
|---|---|---|---|
| 2007 | ブランド再編 | Murray Feiss と Sea Gull Lighting が統合し、新持株会社傘下でスタンドアロン運営へ | 「ブランドを残しつつ、裏側を統合する」というアメリカ照明業界の再編モデルが早い段階で見えてきました。 |
| 2015 | LED化 | EIA集計の基準年では、屋内照明で“主にLED”の世帯は4%にとどまっていました | まだLEDは成長途中で、器具側は過渡期にありました。 |
| 2017 | ブランド再編 | AEAが Visual Comfort & Co. を取得し、Generation Brandsとの統合を発表 | プレミアムとミッドティアをまたぐ大規模統合が本格化し、ポートフォリオ経営が前面に出てきました。 |
| 2018 | ブランド再編 | Visual Comfort Group体制を公表。Tech Lighting にLBL系資産を統合し、Generation Lighting を明確化 | プレミアム、モダン、普及価格帯という三層構造が整理され、ブランドの役割分担が一気に見えやすくなりました。 |
| 2019 | LED化・スマート化 | DOEが2035年にLED設置比率84%、接続型LEDも省エネ寄与の一部になると予測 | LEDが“普及商品”から“市場標準”へ進む一方、接続性が次の競争軸として浮上しました。 |
| 2020年代前半 | 流通変化 | Circa Lighting が編集型ショールーム体験を通じ、Visual Comfort、Tech Lighting、Generation Lighting等を束ねて展開 | 販売の場が単なる陳列ではなく、キュレーション体験そのものへ変わっていきました。 |
| 2022 | 再編・流通変化 | FergusonがMinka Lighting買収契約を公表 流通大手が自前ブランド資産を取り込み、メーカーと販路の境界が薄くなり始めた。 | ブランド再編が「製造側」だけでなく「流通側」からも進む局面に入った。 |
| 2024 | 再編・需要構造 | Kingswoodが Progress Lighting を取得。住宅新築・改装の両市場を意識した独立運営へ | リモデル需要を取り込む中価格帯ブランドの機動性が高まりました。 |
| 2024 | 再編 | Kingswoodが Kichler を取得 | 老舗総合ブランドも再編対象となり、業界再構築がさらに加速しました。 |
| 2024 | LED普及・スマート化 | EIA集計ベースで、米国家庭の90%がLEDを使用し、36%がスマートスピーカーを保有、その一部が照明制御に利用 | LEDは事実上の普及段階に入り、スマート照明も実使用フェーズに入ってきました。 |
| 2025 | 再編 | Coleto Brands 発足。KichlerとProgressを束ねつつブランドは併存 | “ブランドは分ける、インフラは統合する”という再編論理がさらに明確になりました。 |
| 2025 | 再編・建築照明化 | Hudson Valley Lighting Groupが SONNEMAN を取得 | 装飾照明グループが高性能LED・建築照明領域へ拡張し、装飾と建築の境界がさらに薄くなりました。 |

今回の記事で登場したブランドのご紹介
現在の勢力別
-
Coleto Brands系
Kichler / Progress Lighting / élan / Urban Ice
-
Visual Comfort系
Visual Comfort & Co. / Generation Lighting / Tech Lighting / LBL Lighting / Sea Gull Lighting / Murray Feiss -
HVLG系
Hudson Valley Lighting / Troy Lighting / Corbett Lighting / CSL / SONNEMAN / Schoolhouse -
Ferguson傘下
Minka Group(George Kovacs、Metropolitan、minkaAire、Ambience、Minka Lavery、The Great Outdoorsを含むと報道) -
独立系として見やすいブランド
Designers Fountain
| ブランド名 | 主な特徴 | 現在の所属・位置づけ | メモ | ソース |
|---|---|---|---|---|
| Corbett Lighting | 装飾性が強く、ラグジュアリー寄りのデザインで知られるブランドです。 | Hudson Valley Lighting Group(HVLG) 傘下です。 | HVLGはCorbettを自社の主要取得・再活性化ブランドの一つとして位置づけています。 | HVLG About |
| CSL | 建築照明・テクニカル照明寄りの色が強いブランドです。 | HVLG 傘下です。 | HVLGはCorbett、Troyと並んでCSLも取得・再活性化したと説明しています。 | HVLG About |
| Designers Fountain | 1982年創業、ファミリーオーナー系。デザイン性を保ちながら、比較的手の届きやすい価格帯で幅広く供給するのが持ち味です。ショールーム、EC、電材流通、ビルダー向けなど販路が広いです。 | 現時点で、公式の会社案内上は独立系ブランドとして見るのが自然です。 | 北米流通とアジア生産の両方に強みがあります。 | Designers Fountain About |
| Generation Lighting | ビルダー、コントラクター、ホームオーナー、リモデラー向けを意識した、バリュー訴求の強いコレクションです。 | 現在は Visual Comfort & Co. のコレクション体系の一部です。 | “builders and contractors”向け経験を活かしつつ、一般顧客にも届く価格設計が特徴です。 | Visual Comfort – Generation Lighting |
| Hudson Valley Lighting | HVLGの原点となるブランドで、装飾照明のデザイン性とグループ運営の中核を担っています。 | HVLGの創業ブランドです。 | HVLG全体の成長ストーリーはHudson Valley Lightingを起点に語られています。 | HVLG About |
| Kichler | 住宅照明、ランドスケープ、ファンまで含む総合提案力が強みの老舗ブランドです。 | 現在は Coleto Brands の旗艦ブランドの一つです。 | KichlerとProgress LightingがColetoの中核とされています。 | Kichler / Coleto Brands |
| LBL Lighting | もともとはモダン/コンテンポラリー系で認知されていたブランドです。 | 現在は独立ブランドとして前面に出るより、Tech Lighting→Modern platform側に整理されたレガシー資産として見るのが実態に近いです。 | 2018年の再編時に、Tech Lighting側へLBLの主要資産が組み込まれたと説明されています。 | Architect Magazine |
| Minka Group | 照明とシーリングファンを束ねるブランドグループです。 | Fergusonが2022年に買収契約を公表したグループです。 | 報道ベースでは George Kovacs / Metropolitan / minkaAire / Ambience / Minka Lavery / The Great Outdoors を含みます。 | Ferguson / Home Accents Today |
| Murray Feiss | クラシック〜トラディショナル寄りの装飾照明で長く知られたレガシーブランドです。 | 現在はGeneration Lighting系のレガシー資産として理解するのが適切です。 | 2007年にSea Gull Lightingとの統合が完了し、その後のGeneration/Visual Comfort系再編の前史になっています。 | Architect Magazine(2007 merger)/ Visual Comfort – Generation Lighting |
| Progress Lighting | 品質・サービス・設計提案を打ち出し、ビルダー、コントラクター、ホームオーナー向けに強いブランドです。 | 現在は Coleto Brands の旗艦ブランドの一つです。 | 新築・改装の両方にまたがる使いやすさが強みです。 | Progress Lighting/ Coleto Brands |
| Schoolhouse | モダン・ヘリテージ・クラフトを前面に出すブランドで、いわゆる“次世代の家宝”系の世界観が魅力です。 | 現在は HVLGの一員です。 | Schoolhouse公式トップでも、HVLG入りが明示されています。 | Schoolhouse/ HVLG Welcomes Schoolhouse |
| Sea Gull Lighting | 普及価格帯〜住宅向けで長く強かったレガシーブランドです。 | 現在はGeneration Lighting系のレガシーコレクションとして捉えるのが適切です。 | Generation Lightingの中にFeissやSea Gullの系譜が統合されてきた流れです。 | Architect Magazine/ Visual Comfort – Generation Lighting |
| SONNEMAN | 建築照明とデザイン革新の交点にある、ミニマルかつ技術志向のモダン照明ブランドです。 | 2025年にHVLG傘下入りしました。 | HVLG自身が、これを高性能・構成可能なLED領域への拡張と位置づけています。 | HVLG Welcomes SONNEMAN |
| Tech Lighting | モダン照明の中核ブランドとして強く認知されてきました。 | 現在は実質的に Visual Comfort Modern Collection 側へ整理された存在です。 | 現行の公式表現では“Modern Collection”が前面に出ています。 | Visual Comfort – Modern Collection |
| Troy Lighting | 装飾性の高い意匠で、HVLGの中でも存在感のあるブランドです。 | HVLG 傘下です。 | HVLGの成長史の中で、取得・再活性化ブランドとして明示されています。 | HVLG About |
| Visual Comfort & Co. | プレミアム装飾照明の代表格で、デザイナーコラボや高級感のあるポジショニングが特徴です。 | 現在はVisual Comfortブランド体系の中核です。 | 2017–18年の再編を経て、Generation系・Modern系を含む大きなエコシステムの中心にあります。 | Visual Comfort/ AEA Investors |